戦闘服に戦闘帽、黒い編み上げブーツ。右翼活動家としての、それが彼女の"正装"だ。
仲村之菊(みどり)。38歳。──右翼団体「花瑛塾(かえいじゅく)」(本部・東京都)の塾員である。同塾では"副長"の肩書を持つ。
その日も、仲村はたったひとりで沖縄の米軍基地ゲート前にいた。
"コワモテ"をイメージさせる装いだが、上半身を包むトレーナーには「米国の正義を疑え!!」という文字がプリントされている。
彼女は基地と道路の境界線を示す"イエローライン"に仁王立ちした。脇に抱えたトラメガ(拡声器)のスイッチを入れると、米軍基地に向けて、恒例の街宣活動を始めた。
「私の声に耳を傾けてください」
穏やかな声だった。よくある絶叫調のアジ演説ではない。一語一語を丁寧に区切り、目の前の人に語りかけるような口調だ。
「私は沖縄の美しい海を守りたい。森を守りたい。子どもたちが安心して生きていける沖縄であってほしいと思っています」
「沖縄の痛みを理解したいと思う。戦争の傷痕、記憶に思いを寄せたいと思う。そして、基地のない島を目指す沖縄の人々に寄り添っていきたいと思います」
仲村は、米軍の新基地建設に対する抗議を訴えていた。周囲に人の姿はほとんどない。
演説を聞いているのは、ビデオカメラを回しながら彼女を監視している基地の警備員だけだった。
仲村は毎回、市民が座り込む場所から離れたところで抗議活動をおこなう。
「基地に反対する人々の中には、右翼と一緒に見られるのは嫌な人もいるだろうから」という彼女なりの"配慮"でもあった。
時折、頭上をオスプレイがバタバタと独特の轟音をまき散らしながら通過する。仲村は空を見上げる。そのたびに、戦闘帽の一部がキラキラと光る。
よく見れば、戦闘帽の正面には、まるで記章のように、熊の顔をデザインしたガラス製のブローチが付けられていた。
南国の陽を受けて、多面体のガラスからプリズムが生まれる。繊細な光の放射だけが、仲村の穏やかな演説を唯一盛り立てていた。
30分間の街宣活動を締めくくったのは、次のような言葉だった。
「どうか、一緒に考えていただけませんか。沖縄の人々の思いを拒絶しないでほしい」
仲村は監視の警備員に向けて、ぺこりと頭を下げた。それにしても、彼女はなぜ、米軍の新基地建設に反対するのか。
いや、私自身も基地建設には反対だし、沖縄県民の半数以上もそうだろう。
だが、仲村はれっきとした右翼だ。
私は基地建設の現場で、多くの右翼を目にしてきた。いずれも、建設に反対する人々を恫喝し、嘲笑する者ばかりだった。
座り込む市民に対し、「出ていけ」とあらん限りの悪罵をぶつける右翼がいた。デモ隊に街宣車で突っ込もうとする右翼がいた。
反対派市民のテントを破壊しようとして逮捕された右翼もいる。
ときには元在特会(在日外特権を許さない市民の会)メンバーが主体となっている差別者集団も姿を見せる。彼らは高齢者を指さして笑いながら「臭い!」とわめき、さらには民族差別を煽るヘイトスピーチを繰り返していた。
そう、右翼は常に基地建設に反対する市民に向けて吠えていた。
略
なぜ、右翼は米軍基地に反対する市民をすべて"左翼"だとして片づけてしまうのか。
右翼の運動が「反左翼」を主軸としてしまったがために、基地問題を都合よく合理化させているようにしか思えなくなった。
「右翼は国体の護持を主張しながら、沖縄に米軍が駐留している現実に大きな関心を寄せていない。いまでも占領下にあるのと同じことではないですか」
全文
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56511
仲村之菊(みどり)。38歳。──右翼団体「花瑛塾(かえいじゅく)」(本部・東京都)の塾員である。同塾では"副長"の肩書を持つ。
その日も、仲村はたったひとりで沖縄の米軍基地ゲート前にいた。
"コワモテ"をイメージさせる装いだが、上半身を包むトレーナーには「米国の正義を疑え!!」という文字がプリントされている。
彼女は基地と道路の境界線を示す"イエローライン"に仁王立ちした。脇に抱えたトラメガ(拡声器)のスイッチを入れると、米軍基地に向けて、恒例の街宣活動を始めた。
「私の声に耳を傾けてください」
穏やかな声だった。よくある絶叫調のアジ演説ではない。一語一語を丁寧に区切り、目の前の人に語りかけるような口調だ。
「私は沖縄の美しい海を守りたい。森を守りたい。子どもたちが安心して生きていける沖縄であってほしいと思っています」
「沖縄の痛みを理解したいと思う。戦争の傷痕、記憶に思いを寄せたいと思う。そして、基地のない島を目指す沖縄の人々に寄り添っていきたいと思います」
仲村は、米軍の新基地建設に対する抗議を訴えていた。周囲に人の姿はほとんどない。
演説を聞いているのは、ビデオカメラを回しながら彼女を監視している基地の警備員だけだった。
仲村は毎回、市民が座り込む場所から離れたところで抗議活動をおこなう。
「基地に反対する人々の中には、右翼と一緒に見られるのは嫌な人もいるだろうから」という彼女なりの"配慮"でもあった。
時折、頭上をオスプレイがバタバタと独特の轟音をまき散らしながら通過する。仲村は空を見上げる。そのたびに、戦闘帽の一部がキラキラと光る。
よく見れば、戦闘帽の正面には、まるで記章のように、熊の顔をデザインしたガラス製のブローチが付けられていた。
南国の陽を受けて、多面体のガラスからプリズムが生まれる。繊細な光の放射だけが、仲村の穏やかな演説を唯一盛り立てていた。
30分間の街宣活動を締めくくったのは、次のような言葉だった。
「どうか、一緒に考えていただけませんか。沖縄の人々の思いを拒絶しないでほしい」
仲村は監視の警備員に向けて、ぺこりと頭を下げた。それにしても、彼女はなぜ、米軍の新基地建設に反対するのか。
いや、私自身も基地建設には反対だし、沖縄県民の半数以上もそうだろう。
だが、仲村はれっきとした右翼だ。
私は基地建設の現場で、多くの右翼を目にしてきた。いずれも、建設に反対する人々を恫喝し、嘲笑する者ばかりだった。
座り込む市民に対し、「出ていけ」とあらん限りの悪罵をぶつける右翼がいた。デモ隊に街宣車で突っ込もうとする右翼がいた。
反対派市民のテントを破壊しようとして逮捕された右翼もいる。
ときには元在特会(在日外特権を許さない市民の会)メンバーが主体となっている差別者集団も姿を見せる。彼らは高齢者を指さして笑いながら「臭い!」とわめき、さらには民族差別を煽るヘイトスピーチを繰り返していた。
そう、右翼は常に基地建設に反対する市民に向けて吠えていた。
略
なぜ、右翼は米軍基地に反対する市民をすべて"左翼"だとして片づけてしまうのか。
右翼の運動が「反左翼」を主軸としてしまったがために、基地問題を都合よく合理化させているようにしか思えなくなった。
「右翼は国体の護持を主張しながら、沖縄に米軍が駐留している現実に大きな関心を寄せていない。いまでも占領下にあるのと同じことではないですか」
全文
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56511