トウモロコシから抽出したデンプンを化学的処理して、甘みの強い果糖の濃度を高めたコーンシロップは、甘味料として炭酸飲料等多くの食品に使われている。最初グルコースを摂取するより健康的と考えられていた高果糖コーンシロップ(HFCS)だが、最近は肥満や2型糖尿病の原因である可能性を示すエビデンスを報告する論文が増え、食品メーカーは防戦一方のようだ。
守る側は、砂糖として摂取しているショ糖にも多くの果糖が含まれること、構造的にも代謝的にもブドウ糖と同じであり、果糖だけを悪者にする根拠はないと説得に努めているが、実は果糖の代謝についてほとんどが肝臓で代謝されるとする従来の通説は間違っており、小腸でグルコースに転換されることを示す論文が昨年2月プリンストン大学から発表され、私もこのサイトで紹介した。要するに、果糖の栄養学的問題については科学的研究がまだまだ必要なことがはっきりした。
今日紹介するNYコーネル大学からの論文は、HFCSの消費量が、肥満だけでなく大腸ガンの発症頻度と並行して上昇しているという疫学的調査結果に注目し、HFCSの大腸ガン発生に関わる可能性を実験的に追求した論文で3月22日号のScienceに掲載された (Goncalves et al, High-fructose corn syrup enhances intestinal tumor growth in mice(高果糖コーンシロップはマウスの腸に発生した腫瘍細胞の増殖を促進する)Science 363:1345, 2019 )。
まずこの研究で用いられた発ガンモデルは、腸の上皮の増殖を抑えるAPCと呼ばれる分子を欠損させたマウスを用いており、人間でいうと多発性大腸ポリポーシスと呼ばれる大腸に多くのポリープができる遺伝病に相当する動物モデルだ。すなわち発がんと言う点ではすでに突然変異による発ガンスイッチを入れてあるマウスの実験系だ。
このモデルでは、何もしない場合でも、時間が経つとガンが発生する。しかし、このマウスにHFCSを摂取させると、早い段階からポリープの数が上昇し、さらにポリープの悪性度が高まる。
次にアイソトープ標識した果糖を用いて、APCが欠損した腫瘍細胞でだけ果糖が存在するとブドウ糖も取り込みが高まること、そしてこのブドウ糖の取り込みの上昇が、果糖の代謝経路で多くのATPが消費されることでATP濃度が低下し、これが引き金となって起こることを明らかにしている。
そして、ブドウ糖代謝の上昇により脂肪代謝が高まり、増殖に必要な膜成分をはじめ様々な分子が合成され、がん細胞の増殖を高める直接の原因になっていること、そしてこのブドウ糖代謝の上昇は、ブドウ糖を多く摂取することで起こるのではなく、果糖を摂取した結果であることを明らかにしている。
以上の結果は、果糖が肥満の原因だけでなく、ガン細胞増殖でも、それ自体ではなく、ブドウ糖代謝を高めることで問題を引き起こすことがわかる。逆に、furctokinaseと呼ばれる果糖の代謝に関わるリン酸化酵素を阻害さえすれば果糖の効果は消失することを示している。
ただ、果糖を使うために酵素阻害剤を使うやり方は屋上屋を重ねるのと同じで、それより果糖の摂取を制限したほうがいいだろう。
以上、とても使いやすく人間の好みを満足させる高果糖コーンシロップを使う多くの食品メーカーにとっては耳の痛い話だと思うが、そろそろ真剣に対策を練ったほうがいいように思う。
一方、この研究はけっして果糖にタバコのように発がん性があることを示しているのではない。あくまでもガンへと遺伝的スイッチの入った細胞に選択的に働き、代謝を変化させて増殖を促進している点で、発ガン性が無いことはよく理解しておく必要がある。
私も美味しいものに目がない貪欲な人間だが、脳を満足させるために体を犠牲にする悪循環を断ち切る方策をそろそろ議論しても良いのではないだろうか。
Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20190401-00120539/
守る側は、砂糖として摂取しているショ糖にも多くの果糖が含まれること、構造的にも代謝的にもブドウ糖と同じであり、果糖だけを悪者にする根拠はないと説得に努めているが、実は果糖の代謝についてほとんどが肝臓で代謝されるとする従来の通説は間違っており、小腸でグルコースに転換されることを示す論文が昨年2月プリンストン大学から発表され、私もこのサイトで紹介した。要するに、果糖の栄養学的問題については科学的研究がまだまだ必要なことがはっきりした。
今日紹介するNYコーネル大学からの論文は、HFCSの消費量が、肥満だけでなく大腸ガンの発症頻度と並行して上昇しているという疫学的調査結果に注目し、HFCSの大腸ガン発生に関わる可能性を実験的に追求した論文で3月22日号のScienceに掲載された (Goncalves et al, High-fructose corn syrup enhances intestinal tumor growth in mice(高果糖コーンシロップはマウスの腸に発生した腫瘍細胞の増殖を促進する)Science 363:1345, 2019 )。
まずこの研究で用いられた発ガンモデルは、腸の上皮の増殖を抑えるAPCと呼ばれる分子を欠損させたマウスを用いており、人間でいうと多発性大腸ポリポーシスと呼ばれる大腸に多くのポリープができる遺伝病に相当する動物モデルだ。すなわち発がんと言う点ではすでに突然変異による発ガンスイッチを入れてあるマウスの実験系だ。
このモデルでは、何もしない場合でも、時間が経つとガンが発生する。しかし、このマウスにHFCSを摂取させると、早い段階からポリープの数が上昇し、さらにポリープの悪性度が高まる。
次にアイソトープ標識した果糖を用いて、APCが欠損した腫瘍細胞でだけ果糖が存在するとブドウ糖も取り込みが高まること、そしてこのブドウ糖の取り込みの上昇が、果糖の代謝経路で多くのATPが消費されることでATP濃度が低下し、これが引き金となって起こることを明らかにしている。
そして、ブドウ糖代謝の上昇により脂肪代謝が高まり、増殖に必要な膜成分をはじめ様々な分子が合成され、がん細胞の増殖を高める直接の原因になっていること、そしてこのブドウ糖代謝の上昇は、ブドウ糖を多く摂取することで起こるのではなく、果糖を摂取した結果であることを明らかにしている。
以上の結果は、果糖が肥満の原因だけでなく、ガン細胞増殖でも、それ自体ではなく、ブドウ糖代謝を高めることで問題を引き起こすことがわかる。逆に、furctokinaseと呼ばれる果糖の代謝に関わるリン酸化酵素を阻害さえすれば果糖の効果は消失することを示している。
ただ、果糖を使うために酵素阻害剤を使うやり方は屋上屋を重ねるのと同じで、それより果糖の摂取を制限したほうがいいだろう。
以上、とても使いやすく人間の好みを満足させる高果糖コーンシロップを使う多くの食品メーカーにとっては耳の痛い話だと思うが、そろそろ真剣に対策を練ったほうがいいように思う。
一方、この研究はけっして果糖にタバコのように発がん性があることを示しているのではない。あくまでもガンへと遺伝的スイッチの入った細胞に選択的に働き、代謝を変化させて増殖を促進している点で、発ガン性が無いことはよく理解しておく必要がある。
私も美味しいものに目がない貪欲な人間だが、脳を満足させるために体を犠牲にする悪循環を断ち切る方策をそろそろ議論しても良いのではないだろうか。
Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20190401-00120539/