Twitter上で名誉を毀損されたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さんは6月8日、漫画家のはすみとしこ氏ら3人を相手取り、770万円の損害賠償と投稿の削除、謝罪を求め、東京地方裁判所に提訴した。
伊藤さんは2019年12月、元TBSワシントン支局長・山口敬之氏から性的暴行を受けたとして、山口氏を相手取り、東京地裁で起こした損害賠償請求訴訟で勝訴。その際の記者会見で、SNS上などで受けた誹謗中傷(セカンドレイプ※)に対しては法的措置を取ることを明らかにしていた。
※セカンドレイプ:性暴力被害者に対して「被害者にも責任はある」と糾弾することや、誹謗中傷やデマで被害者を貶めること。
折しも、5月23日に死去したプロレスラーの木村花さんが、出演していた番組「テラスハウス」を巡り、Twitter上で激しい誹謗中傷を受けていたことが明らかになり、SNS上での誹謗中傷を巡って、ルールや規制を導入する議論が始まっている。
Business Insider Japanでは今回の提訴に先立ち、 伊藤さんやデータ整理を請け負うリサーチャーを務めた、評論家の荻上チキさんらにインタビューし、提訴に至った経緯やその困難さなどを聞いた。
■ハニートラップと言われて
「米国じゃキャバ嬢だけど、私、ジャーナリストになりたいの!試しに大物記者と寝てみたわ。だけどあれから音沙汰なし 私にただ乗りして、これってレイプでしょ?」
「『事実を書いたら売れないでしょう?だから私はこれを書きました』 マスコミの皆さんもやるでしょう? そうだ デッチあげよう!」
これらはいずれも、今回の提訴の被告となったはすみ氏が投稿したイラストに書かれた言葉だ。イラストは、はすみ氏によって「山ロ(ヤマロ)沙織〜オシリちゃんシリーズ(計5作品)」と名付けられて、Twitterに投稿されている。
在日、売名、ハニートラップ……。2017年5月東京地裁内の司法記者クラブで山口氏から受けた被害について顔と名前を明かして会見を行った時から、伊藤さんはこうしたデマや誹謗中傷の言葉を浴びせられ続けてきた。その舞台は主に、Twitterやまとめサイト、YouTubeといったSNSだ。
■「見なければ」という問題ではない
伊藤さんは、当時の心境をこう語る。
「スルーすればいい、見なければいいんだと人にも言われ、自分にも言い聞かせ続けてきました。それに当時は(誹謗中傷に)向き合うだけのエネルギーがなくて……。何か反論することで、聞かれたくない言葉がまた広がってしまう。そのことがすごく怖かった」
しかし、嫌がらせや誹謗中傷はエスカレートした。自分が行った場所の写真と性器の写真が同時に送りつけられたこともあり、身の危険を感じたという。
伊藤さんの心を動かしたのは、痴漢被害に遭ったという高校生との対話だった。その高校生は、痴漢被害者に対するネットの中傷コメントを見たことで、親にも自身の被害を言い出せなかった。
「『詩織さんへのコメントを見たら、セカンドレイプ的な発言が多く傷ついた。このような言葉を無くすにはどうしたらいいのでしょう?』と言われて。その時から『もし私と同じような性暴力被害者が、あの書き込みを見たら』と考えるようになりました。自分が見なければ良い、という問題ではないと気づいたんです」
伊藤さんがこうしたSNS上での誹謗中傷、攻撃に対して法的措置を取るために具体的に動き出したのは、2020年1月ごろ。いよいよ提訴に踏み切ろうというタイミングの5月に、木村花さんの死を知った。
「ちょうど木村花さんが亡くなる少し前に自分も、『ああ、もうダメかもしれない』と感じてしまったことがあって……。あのニュースはすごくショックだったし、私にとって他人事ではない、と思いました」
■リツイートの責任も問いたい
ネット上のセカンドレイプに法的措置を取ることは2019年12月、山口氏との民事訴訟で勝訴した際の記者会見ですでに明らかにしていた。しかし、誰のどんな投稿を訴訟対象とすれば良いのか。
対象者の絞り込みに協力したのが、普段は評論家として活動する荻上チキさんらのチームだった。
荻上さんはまず、プログラマー・エディター・リサーチャーなどによるチームを作った。そしてTwitter、ヤフーコメント、YouTube動画とそのコメント、Naver、まとめサイト、ニュースサイト、個人ブログ、Facebook、トレンドブログ、Yahoo!知恵袋、2ちゃんねる(5ちゃんねる)、はてなブックマーク、Togetter(トゥギャッター)など、ウェブサービスを横断的にチェック。伊藤さんの誹謗中傷をリサーチした。
2に続く
ビジネスインサイダー
Jun. 08, 2020, 02:30 PM
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